2003年12月01日

[ タイトル:ブロードバンド、夢の通い路]
[ 著者:下浦一宏 ]

弘法大師の巻

こんにちは、下浦@IT調査員です。今回は弘法大師を題材に、ソフトウエアの伝承について考えてみたいと思います。

▼ 高野山奥の院

私は大阪府南部で育ちましたが、小学校の林間学校は高野山でした。高野山で驚くのは奥の院です。巨大な木立の間に、庶民にまじって、武田信玄、上杉謙信、伊達政宗、織田信長、明智光秀、豊臣秀吉といった戦国武将の供養塔が、敵味方を超えて並んでいるのです。まるでラグビーでいう「ノーサイド」ではないか?弘法大師がいかに日本人の普遍的信仰を集めていたか分かります。

http://www.itijyoin.or.jp/koyasan/okunoin.html


今年の春に東山の京都国立博物館で、弘法大師入唐1200年記念として「空海と高野山展」がありご覧になった方も多いと思いますが、場内は善男善女で混雑し、いまだに大師信仰は衰えませんし、四国八十八カ所を巡ってみようと考える人も後を絶ちません。

http://www.kyohaku.go.jp/tokuchin/kukai/
http://www.mikkyo21f.gr.jp/index.html


▼ 空海の奇跡

空海の逸話で最も感動的なのは、恵果和尚から、密教の最高位を受け継ぐ場面です。唐の都、長安にある青龍寺を訪れた空海に対し、恵果は「私は長らくあなたの来るのを待っていた。ケッコウ、ケッコウ」といって、1000人の中国人弟子を差し置いて、異国からやって来た32歳の若者を自分の後継者(真言密教第8代祖師)に指名するのです。

http://www.kochinews.co.jp/rensai99/kukain04.htm


誰を後継者に指名するか? というのは大企業の社長などでも重要で、これを間違うと社員が路頭に迷いかねません。当時、空海は全く無名の存在でしたし、恵果は全く自らの直感で空海を大抜擢したのです。その判断が正しかった事は、歴史が証明しています。

恵果は、西暦805年5月に空海に会って、密教の奥義を伝授した後、12月15日に「早く日本に帰って密教を伝えるように」と言い残して亡くなりました。それで空海は恵果の葬式を済ませた後、20年の留学予定を2年で切り上げて、多数の経典や仏具と共に、遣唐使船で帰国しました。その後しばらく遣唐使船は途絶え、また中国では密教が消滅しましたので、奇跡的タイミングで密教が現代に伝承された事がわかります。


▼ ソフトウエアの伝承

ハードウエアの伝承に比べて、ソフトウエアの伝承(専門教育と言っても良い)は格段に難しいと思います。基本的に人から人へ伝えられるものですから、「運命的出会い」というものがなければなりません。また書物などで未来へ伝える努力もなされますが、焼失したり、時代とともに言語が変わってしまうリスクがあります。

http://www.kyohaku.go.jp/tokuchin/chu/tyuj.htm


空海と最澄が絶交したのもソフトウエア伝承に対する見解の相違が原因です。空海と最澄は同時期に唐に渡りましたが、最澄は国費留学で日本での地位もずっと高く、空海が世に出るきっかけを作りました。最澄が書き写した空海の留学報告書(請来目録:国宝)が残っています。最澄は謙虚な勉強家で、空海からお経を借りて勉強するのですが、「理趣釈経」については、読んだだけでは解らない、といって空海が貸し出しを断った由です。

http://www.osoushiki-plaza.com/library/kyouten/singon-k.html


先生との出会いが人生を決めるという話は良く聞きますが、現在の大学は、どういう先生がいて、どのような教育が行われているのかの情報が不十分で、偏差値やブランドで選んだりしますから、これでは本当の知恵の伝承、発展はうまくいかないと思います。こういった情報提供は受験産業などにも頑張ってもらいたい所であり、単に入試に合格すればOK、という時代は終わったと思います。

また書物にしても専門書は読者数が少ないため、名著であればあるほど絶版になる傾向があるようです。例えば、日本の情報社会学の先駆者である増田米二の本や、光通信の先駆者である大越孝敬の「光ファイバ通信(岩波新書)」なども、古本屋を探さねばならない状況で、実に残念です。今後、専門書は絶版の無いオンデマンド出版に限るのではないでしょうか?

http://www.book-ing.co.jp/pod.html


▼ 宗教とソフトウエア産業

宗教とソフトウエア産業は共通点が多いように思われます。ヲバタさん(写真館経営)の表現を借りれば、「顧客の潜在意識に付加価値を注入し、その後の人生・生活で、顕在化させる」ことを目的としますし、高野山の木立の中に多数の寺院の点在する様子は、シリコンバレーを彷彿とさせます。視覚、聴覚等のマルチメディアを最大限活用する方向性も共通するでしょう。

また成功した宗教は、教えの中身もさることながら、弟子のマーケティング努力も大きかったことは、キリストの「12使徒」や、泉鏡花の「高野聖」などを考えても想像できる所です。空海は大学を中退して自らの道を歩み始めた訳ですが、ビルゲイツもハーバードを中退してマイクロソフトを始めた訳で、それぐらい強
い目的意識が無ければ、なかなか教祖にはなれないようです。とりとめなくなりましたが、本日はこれにて失礼します。

http://www.pcs.ne.jp/~yu/ticket/supper/supper.html


プロフィール
下浦 一宏(しもうら かずひろ)
関西電力株式会社 研究開発室付(休職中)

Posted by shimoura at 2003年12月01日 10:21 | トラックバック
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