こんにちは、下浦@IT調査員です。前回紹介したレーガン大統領は、「俳優」と「政治家」の類似性について実証しましたが、「研究者」と「起業家」というのも案外、似ているのでは無いかと思います。研究者の中には、驚異的なマーケティング能力を発揮する人も存在しますので、私の知る範囲でご紹介したいと思います。
▼ 研究者と起業家の類似性
まず、次の2つの定理から出発したいと思います。
(定理1)人間には(一般に不可能と思われていても)出来る事もたくさんある
(例)最近話題の青いバラ、土星の輪の超精密写真など
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0406/30/news051.html
http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/archivepix.html
(定理2)人間には(一般に可能と思われていても)出来ない事もたくさんある
(例)いつまでたっても実験中の超伝導リニア、核融合発電など
http://www.asahi.com/business/update/0706/100.html
http://www.iter.org/
研究者や起業家は、知識や洞察力、人脈、行動力等を駆使して、新たな発見をしたり、新たな事業を開拓したりする人ですから、通常は(定理1)に従って活動している訳です。一流と二流の差は、実現可能性に対する洞察力の差にあると思います。
研究者や起業家の堕落は、(定理2)を悪用した瞬間、即ち本音では実現の見通しが立たない研究や事業を、さもバラ色の可能性があるように言って、研究費や資金調達する事から始まる、という点でも両者は似ています。
また、最初は(定理1)に従って活動していても、やがて(定理2)に移行してしまう場合もある訳で、撤退ポイントの判断が重要という点でも似ています。どういった時間スケールで考えるか? とか、社会情勢の変化によっても結果は異なってくるでしょう。
▼ (その1)レーザー核融合研究センター
私は、学部、大学院と3年間、阪大レーザー核融合研究センターに所属しておりました。元々は、工学部電気工学科の1講座に過ぎなかったのですが、山中千代衛先生という天才的起業家を教授に迎えて拡張を繰り返し、吹田地区のド真ん中に、薬学部とか人間科学部と見紛うばかりの巨大な建物を持つに至ったものです。
http://www.ile.osaka-u.ac.jp/
http://www.osaka-u.ac.jp/jp/about/map/suita.html
先生はよく「天の時、地の利、人の輪」と仰ってました。石油ショックが起きて将来のエネルギー不安が高まったとか、企業トップや役所の説得にうまく成功されたとか、多少ハッタリもあったかも知れませんが、時流を的確に捉えて、周囲を巻き込む話術とエネルギーには圧倒されるものがありました。
レーザー核融合は、直径数メートルの容器の中で、ミニ水爆を爆発させる技術で、軍事技術ではないのか?との批判が常にありました。特にレーガン大統領がSDI構想を打ち出してからは学生運動の批判も高まり、拡声器のがなりたてる中で最終講義をされたのが印象的です。
http://homepage.mac.com/ehara_gen/jealous_gay/tmd.html
もちろん定年後も地方の大学に天下ったりはせず、自ら社団法人や財団法人を設立して産学連携を推進し、従来と変わらず第一線で活躍されている事は言うまでもありません。先日は勲2等も受賞されました。で、肝心の核融合は実現するのか? どうもそれは余り関係無いようなのですね。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/lsj/
http://www.ilt.or.jp/
http://www.ilt.or.jp/cross/no152.pdf
▼ (その2)ユビキタスネットワーク
最近、ユビキタス(ubiquitous)という言葉をよく聞くようになりましたが、ゼロックス社のPARC(パロアルト研究所:Mac発祥の地ですね)の研究者が1991年に書いた「21世紀のコンピュータ」という論文の中に何度も出てきますから、古くからある言葉に違いありません。
http://nano.xerox.com/hypertext/weiser/SciAmDraft3.html
http://www.parc.xerox.com/
誰が日本で「ユビキタス」を普及させたのか? 私の知る範囲では、東大の青山友紀教授です。青山教授は元NTTの研究者ですが、NTTの研究所は厳しい所で、40代後半になると全員外に出て行く事になっています。全国の大学、企業研究所にはNTT出身の研究者が多数おられる訳です。
http://www.mlab.t.u-tokyo.ac.jp/
平均年齢50歳という電力会社の研究所に来られた私の元上司もNTTの出身者で、上司を通じて青山先生と名刺交換させて頂く機会がありました。東大に移られた青山先生がまず立ち上げたのは「フォトニックネットワーク」です。これは第16回で紹介したブロードバンドに伴うインターネットの崩壊を回避するための研究で、私もこの研究会に参加させて頂きました。
http://www.scat.or.jp/photonic/
次に立ち上げられたのが「ユビキタス」であり、特に総務省など中央官庁でマーケティング活動を展開されたようです。その結果全国の役所、ベンチャー支援組織等が「ユビキタス」という言葉を使うようになりました。今年の情報通信白書のテーマでもあります。
http://www.soumu.go.jp/s-news/2001/011126_1.html#TOP
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/index.html
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/summary/summary01.pdf
先生は3匹目のドジョウとして「デジタルシネマ」の普及にも取り組んでおられます。これはハイビジョンの2倍の解像度(800万画素)の映像で、劇場映画を配信しようという計画であり、ハリウッドのキーパーソン相手にデモンストレーションを行い、最近この映像規格がオーソライズされたというニュースが流れました。
http://www12.ocn.ne.jp/~d-cinema/
http://www.olympus.co.jp/jp/magazine/techzone/vol56/index.cfm
http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0406/11/news074.html
思えば、「ユビキタス」にしろ、「ナノテク」にしろ、研究者が予算獲得のマーケティング活動によって生み出したカタカナ言葉は少なくないように思われます。私自身も会社時代、「ソリトン」という言葉に何度か助けられた経験がありますが、その話はまたの機会にさせて頂ければと思います。
プロフィール
下浦 一宏(しもうら かずひろ)
IT調査員(ブロードバンド担当)
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